テーマ:フィクション

ワルモノ先生への手紙 1

ーこの話はすべてフィクションです。ー あまり広くはない部屋。シンが入ってくる。 それほど大事でもなかったのか、抱えてきた壷のような物をベッドの足下に面倒臭そうに置く。 少し離れて窓には白い花を生けた萌葱色(もえぎいろ)の花瓶。 持ってきた物と入れ替えようとしたが、気に入らなかったようだ。 尖った光が射してくる窓の外に、…
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美しい牢獄と、貧しく汚れきった自由 (3) 教室

夜明け前、ブワルヤは起きだしてきて、壺に取っておいた種火を取り出し、かまどに火をともす。 かまどは3つの口があり同時に3種類の調理ができる。昨夕子供達と汲んできた水を鍋に沸かし、 残った2つの口で朝食を手早く作る。 朝は突然にやって来る。地平線から射す光。木々や大地や動物たち、 眠っていた輪郭が全て明らかになる。 ここでは…
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美しい牢獄と、貧しく汚れきった自由 (2) 人造湖

山間の渓谷の34%を沈めて作られたという人造湖。 むき出しの岩肌にそって、モーターボートは北西方向に進む。 途中何度か船は停まり、北岸の様子をうかがうかのようだ。 政府は開発援助事業として、 この地におけるレアメタル事業を行うことを取り決めた。 そのための現地調査依頼を受け、愛子はここにいる。 45分が経った。 い…
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美しい牢獄と、貧しく汚れきった自由

イトウ先生が自殺したと聞いて以来三ケ月、中断していた絵を、愛子は再び描き始める。 悲しみと怒り。黙っていると吐きそうになる喪失感。 思いの限りをすべて絵筆に込めて、暴力的にそして丹念にキャンバスに描き込んでいく。 外は雨。10万本の槍が叩きつけるように突き刺すように降ってくる。 愛子の絵を初めて褒めてくれたのはイトウ先生だっ…
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ワルモノ先生(2) 生き延びる

フィリピン、ミンダナオ島 膨張と収縮を繰り返すアメーバー状のアメリカ軍は、 周囲に伸ばしていた触手をおさめ集結しながら、 明日にも発動する総攻撃のため体制を整えていた。 追い詰められ、万策尽きた日本軍は、 夜間いわゆる「バンザイ突撃」を断行すると決めた。 ダバオに配属されていたハギワラは、軍靴を拭きあげ、銃の手入れを…
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アルベルトへの手紙

わが弟 アルベルトへ 真紅のロザリオを握りしめ 祈りの風景の中で君を思い続ける母から少し離れたこの場所で、 ただ、君が帰ってくる日を待ち望んでいる。 君が世田谷のアパートから消息を絶ち6年が経つ。 とても寒い日、突然に、逃げるように君はいなくなった。 幼い頃、君はとても美しくそして賢く、近所の大人からさえ愛されて…
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ワルモノ先生の講義/伝統(4)

万物は流転する。 不変のものなど存在しない。伝統も例外ではない。 ならば、伝統が変容する事に積極的に参加して楽しめばいい。 それが私の提案だ。 *********この話はフィクションです。******************
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ワルモノ先生の講義/伝統(3)

伝統主義者は自分達の思いとは裏腹に伝統を殺してしまう。 何故なら、彼らは伝統が現代と接触することを極端に嫌う。 酸素がないと生きられないように、 新鮮な時代の空気に触れることが許されないのなら やがて窒息してしまう。 宗教であれ、イデオロギーであれ、フランス料理であれ、相撲の世界であれ、 原理主義にはまると、たびたびそういう…
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ワルモノ先生の講義/伝統(2)

伝統主義者は、特定の過去を理想として捉えすぎる。 「今に比べて、昔はもっと…。」 歴史をさかのぼる昔は、美しいユートピアだという考え方。 しかし、往々にして記憶は本人達に都合よく書き換えられる。 それに、私達が向かっているのは未来であり過去ではない。 今現在、ここで起こっているむきだしの現実に向き合わなければならないのだ。 …
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ワルモノ先生の講義/伝統(1)

過去とは、それぞれの解釈でしかありえない。 例えば、君が考える「フィリピン独立に至る経緯」と、 私が実際体験したそれとでは、当然、違いがある。わかるよね。 もちろん、専門的な検証や、すり合わせは、ある程度可能だろう。 しかしここで問題なのは、すり合わせの不可能性よりも 「違いがある」ということに無自覚なことだ。 われわれ…
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ワルモノ先生  (1)

Hは、仕事でマニラに出張した時、複数の人から元日本兵の生存情報を聞いた。 「90歳の日本兵が、フィリピン・ミンダナオ島で生存している」 「山奥の集落で、族長として崇められ、家族と共に暮らしている。」 「香川県出身の○○カイジョウさん(89)らしい。」 「自らをワルモノ・センセイと名乗っている。」 「自ら…
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タリバン

アフメドさんに初めて会ったのは17年前だったと思う。 その当時、学生だった私は、留年して暇だった事と、半分は好奇心から、 学務課から頼まれた、チューター(留学生の世話係)を引き受けていた。 彼とは、私の担当の李(イ)さんを介して、知り合った。 私と李さんとアフメドさんの3人は、特に気が合って、時には飲みに行く なんて事…
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