美しい牢獄と、貧しく汚れきった自由 (3) 教室

夜明け前、ブワルヤは起きだしてきて、壺に取っておいた種火を取り出し、かまどに火をともす。
かまどは3つの口があり同時に3種類の調理ができる。昨夕子供達と汲んできた水を鍋に沸かし、
残った2つの口で朝食を手早く作る。

朝は突然にやって来る。地平線から射す光。木々や大地や動物たち、
眠っていた輪郭が全て明らかになる。
ここでは全てが眩しい。子供達が起きてくる。
「お父さん、おはよう。」
「おはよう。テーブルに冷まし湯があるから、飲んでおきなさい。それからお祈りをして朝食にしよう。」

5年前、ブワルヤが留学から戻った時、この地域は紛争のため荒廃していた。
時折出没するゲリラ達、それに対する政府軍。
結果的にはどちらも信用できなかった。彼の生家は焼け落ちていた。
この子達も親とはぐれていた。そのうちの一人ムルネクは、
足を撃たれ動けず、無表情に宙空を見つめていた。

穀物の粉を水で練って発酵させ、クレープ状にして焼いたもの、
ジャガイモトマトと野菜の煮込み。
朝食が済むと全員で片付け、そして掃除。
その後、小屋は即席の教室に変わる。今からは公用語でもあるフランス語だ。

ブワルヤが問う。
Comment vous appelez-vous?  (コモンヴザプレヴ;あなたのお名前は何ですか)
ムルネクが答える。
Je m’appelle mruneque. (ジュマぺル ムルネク;私の名前はムルネクです。)
「今度は向き合って、お互いにやってみよう。」
子供達の声が小屋に響く。

一瞬だけムルネクが怯える。
遠くから4輪駆動のランドクルーザーが土煙りをあげて来るの来るのが見えたのだ。
車から男がおりてくる
「授業を中断して申し訳ない。畑を誰か手伝ってもらいたいのだが、出てきてもらえないだろうか。
人手を取られて困っているのだ。」
「では、いますぐ行きましょう。農業を体験できるいい機会だ。誰かついて来るかい?」
4人ともついて来るという。
「ムルネク、車に全員は乗れない。
テーブルに、ピーナッツとトマトのシチューとパンを置いておくから留守番していなさい。」
40分程かけてテバンヤと名乗る男の畑に向かう。

ブワルヤがクワをふるい、子供達が小石や草そして根っこを取り除いていく。
決して速くはないが丁寧な仕事が体裁を整えていく。
昼食に一度休憩を入れたら、夕暮れ時まで彼らは作業を続けた。
クワを振るブワルヤの背中が夕日に照らされる。
美しい後背筋が白いシャツを通してもはっきりと見える。
後の偉大なる指導者を、その場にいる誰もが感じた。
あっけにとられ、テバンヤが見渡すと立派な耕作地が出来上がっていた。

「帰り道、水汲みによってもらっていいですか。」
「もちろんだ。それに少ないがこれを持って行ってくれんか。
本当に今日は助かった。ありがとう。とても感謝している。」
というと深く頭を下げ、現金と野菜そして少しの肉を袋に入れて渡してくれた。

小屋に戻ると別のランドクルーザーが止まっていて、愛子とムルネクがいた。
「どうしたんだ。こんなところまで来て。」
「頼みたいことがあって。それより夕食を作っておいたから、みんなで食べましょう。」
面喰っているブワルヤをよそに、子供達は珍しい客人を喜んでいた。

夕食の前の祈りが終わると、ブワルヤは万年筆を取り出しムルネクに渡す。
「ムルネク誕生日、おめでとう。これは僕が留学してた時使ってたものだ。勉強に使っておくれ。」
「ありがとう、お父さん。とてもきれい。私ずっとずっと大事にする。」
長い間、杖を頼りにしないと歩けなかったムルネク。
ここまで回復したことを思うとブワルヤは眼頭に熱いものを覚える。

夕食が終ると、愛子が用意したお菓子をみんなで食べる。
ささやかな喜びと笑顔が小屋の中に満ちている。
愛子が話し出す。
「この地で絵を描かせてもらえないかしら。ここでしか描けないものがあるの。
テントも用意したし、邪魔にならないようにするから。」
ブワルヤはしばらく目をつぶり考える。そして、怒ったように言う。
「先進国の人は、いつも勝手だな。
このあたりで女性一人テントに置いておける訳ないだろう。
小屋の中に泊まりなさい。そのかわり何もできないからね。」
「ありがとう。優しいのね。」

***************************この話はフィクションです。*****************************************

画像

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック