美しい牢獄と、貧しく汚れきった自由 (2) 人造湖

山間の渓谷の34%を沈めて作られたという人造湖。
むき出しの岩肌にそって、モーターボートは北西方向に進む。
途中何度か船は停まり、北岸の様子をうかがうかのようだ。

政府は開発援助事業として、
この地におけるレアメタル事業を行うことを取り決めた。
そのための現地調査依頼を受け、愛子はここにいる。

45分が経った。
いやな緊張感が続き、汗がにじんでくる。
耐えきれなくなった愛子は、湖水に手を触れようとするが、
ガイドがすぐに制止する。
「やめたほうがいい。ニャミニャミ様がお怒りになるから。」
「ニャミニャミ様ってなに。」
「現地で信じられている土俗の神様だ。何度か災いがあったとも聞いている。違う部族の私は信じてはいない。しかしおろそかにしようとは思わない。」
ガイドのブワルヤはそういうと、
明らかに、ニャミニャミ様とは全く別の何かに関心を寄せ
静かに視線を北岸に戻した。

目的の場所に着き湖から上陸すると、
倒壊して放置されたガントリークレーンがあった。
そのそばには、数棟はあったであろう焼け焦げた小屋の残骸や、
錆び崩れた数十個のドラム缶があり。
銃痕残る四輪駆動車が横倒しになっていた。
寡黙なブワルヤが語りだす。
「このあたりでは子供達も戦闘に駆り出されている。
紛争中、家族からはぐれた子供達は、使い捨ての兵士として目を付けられる。
ひどい仕打ちを受け、無理やり戦わされ、必要ないとこの湖に捨てられる。」
「信じられないけれど、それが事実なのね。」愛子の問いにブワルヤがうなずく。
湖は深い紺色で残酷な美しさをたたえている。
細切りの短冊を放射状に重ねた合わせたピンクの花が咲いている。

5kmほど離れた場所に台地があり、まばらに小屋が立ち並んでいる。
そこまでは、徒歩で登って行った。
毛糸がからみつくように伸びたバオバブの木が、中央に見える。
小屋の中で母親が幼い子供に粥状のものを食べさせているのが、のぞき見えた。
年老いた男が、まっすぐに射してくるような視線を向けてくる。
「どうやら歓迎されていないみたいね。」
「そうだ、あまりに長く続いた紛争のため彼らは人間不信におちいっている。
 とどまる山羊は獣に狩られ、安らぐ獣は、人に狩られる。先を急ごう」

しばらく行くと、このあたりを治める有力者が邸宅を構えていると言う。
有力者は、調査団のために歓迎の宴を開くそうだ。
「できれば、丁重にお断りしたいのだけど。」
「彼は短気で有名だ。身の安全を考えるなら、それはやめた方がいい。
一応は感謝の念を表し、何の約束もせずに受け流すのがいい。」

男は、予想を覆さない様相で、恰幅の良い体格をしていた。
愛子が女性とみるや、実質的な決定権がないと判断したのだろう、
好奇な目を向けるだけで、要求らしい要求は何もなかった。
それでも宴席に出された料理は、この一帯ではとても手に入りにくい食材を使っており、彼の力のほどがうかがえた。

宴席からの帰路でブワルヤはいった。
「君たち先進国の人間は、我々が自立の努力を怠っているように思うかもしれない。
 しかし実際には自立しようにも、社会的なインフラが破壊されているのだ。
 医者や看護婦は殺され、農地は地雷原となり、私たちは生きるすべを失いつつある。
 そしてその紛争の原因は、われわれとは無関係の地下資源だ。」

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